思いもかけぬコロナ禍の拡大で、当館も臨時休館をさせていただいております。そこで、しばらくのあいだ、当館所蔵作品を毎週1点ずつご紹介いたします。
心に垂れ込める暗雲を、ほんのひと時でも押しのけていただければ幸いです。

大田垣連月(1791~1875)自筆短冊 金砂子散短冊 絹本

花のひ たびにありて
やどかさぬ人のつらさをなさけにておぼろ月よの花の下ふし  蓮月

 

斎藤茂吉(1882~1953)自筆短冊 金霞入金切箔砂子散

いにしへにありし聖は青山を越えゆく弥陀にすがりましけり  茂吉

当館の特徴のひとつは所蔵品の分野が多岐にわたっていることです。今回は「書」の分野から、作者直筆の歌が描きつけられた短冊をご紹介します。

 

これら短冊は日本独特の「工芸品」でもあります。蓮月の短冊は、絹布が貼られ金砂子が撒かれています。茂吉の歌が書きつけられた短冊の料紙は、金色の霞模様に金箔・金砂子が散らされた美しいものです。

 

大田垣蓮月は江戸後期から明治初年を生きた女流歌人。美貌の人、無私の人であったといいます。伊賀上野の城代家老を実父として京都に生まれ、知恩院譜代大田垣家の幼女になりますが、次々と肉親を亡くすなか、30歳を過ぎて仏門に入ります。間もなく和歌と陶器の創作を開始、自身の歌を刻んだ陶器は人気となりました。

 

斎藤茂吉は「死にたまふ母」を歌った短歌でご存じの方も多いことでしょう。山形県に生まれ東京へ。大正から昭和にかけて活躍した歌人で、精神科の医者でもありました。今回の歌は、医学研究の留学から帰国する途上に全焼した病院の再建や短歌機関紙「アララギ」発行に苦労している時期の歌集『ともしび』に収録された、「高野山」と題する歌の一つです。